医院の歴史を懐かしさとして表現

池田耳鼻いんこう科院

2008年 新築移転

和歌山市和歌川町9-39

TEL.073-446-1487

http://www.ikeda-jibika.jp/

和歌山で有名な池田耳鼻いんこう科院。院長先生は3代目で、その息子先生も耳鼻咽喉科の病院勤務医師であり、シックハウスの権威でもあります。この若先生、三味線をたしなみ、喋りも芸人なみに達者で多才な方です。初代の先生は、医師をリタイアした後、画家として大成されたとのことですし、院長先生の奥様は絵と書がとても達者です。このように芸術方面にも長けた医師家系の医院建築プロジェクトに参画させていただきました。

既存の医院はピロティ形式(1階が駐車場などに使用される形式)の建物の2階にあり、エレベーターがなく、患者さんが2階まで登らなければなりませんでした。長いおつきあいの患者さんが多いのですから、当然ながら医院とともに患者さんも歳をとっていきます。そんな状況の中、ある日患者さんが階段を踏み外されたことが、新規医院を建築するきっかけとなりました。

このような不自由なアクセスの中で診察が行われていたものの、患者数は和歌山の耳鼻咽喉科医院で最多だったとのこと。患者さんが階段にも並びきれず下の駐車場まで溢れることがあったようです。現状の物理的な問題解決のみならず、もっと快適な環境を患者さんに提供したいとの院長先生の思いにより、通常の医院とは一味違う医院空間をつくることが求められることとなります。

建築にも詳しい若先生を窓口にして3年前から懇親を深め、コンセンサスを高めていきました。最初は、近所の所有地への移転で3階建て新築の計画の予定でしたが、近くに大きな土地が見つかり、そこを購入して余裕ある2階建て新築とすることとなります。土地を購入したために、建築コストが厳しくなりましたが、池田家の信頼が厚い施工会社の黒田組さんの思い切りに助けられ、複雑な施工ながらも、丁寧にうまく仕上げていただきました。

土地の前面は4車線幹線道路で、車がかなりのスピードで通り過ぎます。既に人気医院ですので、ことさら目立たせる必要もないのですが、高速で通りすぎても、耳鼻咽喉科医院として記憶に残る建物にする必要は感じました。


幹線道路沿いによくあるビルボード建築(大きな看板が顔になっているような建築)を避けて、評判の良い池田耳鼻いんこう科院の新しい診療所として納得できるような建物にしなければなりません。また幹線道路沿いは何処も看板が多く、無計画で人工的な色であふれています。看板競争のように色とサイズで目立たせることは、逆に印象が乏しく悪くなりがちです。このようなことを考慮して、単色で形態が特徴的な建物にする方向性を選択しました。片流れ屋根のベーシックな建物の吹き抜け部分のボリュームを抑え、斜めのラインを強調するだけで、かなりユニークな形状となります。しかしこの形状を施工することは非常に難しく、特に内部の垂木は優秀な監督さんと大工さんが頭をひねり、じっくり造り上げてくれました。その成果として、吹き抜けがより華やかな見せ場となったようです。

土地の西側に前面道路があり、強烈な西日が射し込んでくることは大きな問題です。しかし真っ青な空が楽しめるゆえ、まったく閉ざしてしまうのも惜しいので、屋根の形状に沿ったハイサイド窓を設け、下部の窓は外壁の延長のような塀によって、中庭の樹木とともに直射日光を遮るように計画しました。内部からは中庭の樹木が楽しめ、木漏れ日だけが癒しのシャワーのようにゆらゆらと射し込んできます。

内部仕上げは歴史ある医院の雰囲気を継承できるように、懐かしい色合いで染色された木で統一しました。外壁のプレーンな質感からのギャップが、ロードサイドとは思えない空間に包まれるスイッチとなり、患者さんにゆっくり過ごしていただけるしばしのやすらぎを提供することができているようです。

施工が難しい建物で、途中にはいくつもの困難もありましたが、池田先生とご一家のフォローによって、最終的にはすべて良い結果に結びつけることができました。地域に愛される池田家の新しい医院として、今後の発展が楽しみです。
ロゴデザイン アルトラ RIKEW
施工     株式会社 黒田組 東清治 
照明計画   株式会社ライト 阪東英輔
撮影     藤谷写真事務所 藤谷伸次

建築面積 123.36㎡ 延床面積 162.60㎡